第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「よし、チャオくんっ他にも良い絵があるんだよ、見るかいっ?」
「え? あ、はいっス! ぜひ!」
気持ちのいい返事を返してくれるチャオジーに満面の笑みを浮かべながら、ほくほくとティエドールが目の前のスケッチブックに手を伸ばす。
「これもユーくんとマーくんの絵なんだけどね。昔、まだユーくんが10歳足らずの時で」
「へぇ~! それは見てみたいっス!」
「さっきの絵に比べればいつもの顔をしているんだけれど。これもこれで良い絵なん」
「ほお」
リズミカルにスケッチブックを捲っていたティエドールの手を止めたもの。
それはこの場にはないはずの低い声。
「俺も興味がある。見せろ」
「…ぇ…ぁ…! か、か…っ!?」
「見せろ今すぐ」
「落ち着け、神田。チャオジーがお前の殺気に気圧されてる」
「お前も被害者だろうがマリ」
椅子に座っている二人の背後から、ぬっとかかる二つの影。
振り返ったチャオジーが、その影の出所を見てひっと小声で悲鳴を漏らす。
見えたのは、逆行に立つ人影だった。
肩に手を置いて宥めようとしている影の方が遥かに大柄なのに、それよりも低い影が放つ冷たい殺気の方が遥かに恐ろしい。
逆光で顔は見えない。
なのに眼孔の開いた鋭い視線が突き刺さってくるようだった。
「おや、ユーくんにマーくんじゃないか。丁度良い、君達の話をチャオくんに聞かせてあげてたんだよ」
「そのふざけた絵と一緒にか」
恐ろしさで身を縮ませるチャオジーとは正反対に、のほほんといつもと変わらぬ様子で笑顔を向けるティエドールに影の殺気が増す。
殺気の元こそ、今仕方話題に出ていた人物。
神田ユウその人である。
「それより二人もお茶をしに来たのかい? 嬉しいねぇ」
「いえ、師匠。我々は次の任務について託を室長から承っていまして…それを伝えに来たんです」
「そうなの?」
にこにこと席へ促そうとしたティエドールを、申し訳なさそうに遮ったのはマリ。
どうやら二人は仕事の為にティエドールの下を訪れたらしい。