第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
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──そして現在(いま)。
「…息子と娘、っスか…」
「うん」
はわぁ、と頬を染めてチャオジーが呟く。
大切な息子達が絆を繋げた仲であるならば、彼女達もティエドールにとっては大切な娘達だ。
あっさりと頷き笑顔で肯定するティエドールに、またチャオジーは自分のことのように照れた頬を染め上げた。
全てを話しきった後、ティエドールは優しい笑みを浮かべたままスケッチブックへと視線を落とす。
「この絵はね、見る向きが違うんだ」
「え?」
「チャオくんの見てるこっち側じゃ正反対なんだよ」
「えぇっ! そうなんスか!?」
「うん。本当の見方はね、こうして…」
チャオジーへと向けていたスケッチブックを引っくり返す。
見事な宮殿と噴水、そして観光客の姿が逆さへと引っくり返る。
これのどこが正しい向きなのだろうかと、チャオジーは不思議そうにラフ画を覗き込んだ。
「し、師匠…俺にはよくわかんないっス…」
「よぉーく見てごらん。見えてなかったものが見えてくるはずだよ」
「見えて、なかったもの…?」
むむむ、と眉間に皺が寄る。
一生懸命真意を汲み取ろうとしているチャオジーの姿に、ティエドールはくすくす微笑みながら注ぎ足した紅茶に口を付けた。
この分では、彼がこの絵の真の姿に気付くには時間が掛かるかもしれない。
「──あっ!!」
そう思った矢先だった。
一心に絵を見つめていたチャオジーが大声を上げたのは。
「これ…ッも、もしかしてこれっスか…ッ!?」
「おや。よくわかったねぇ」
興奮気味にチャオジーの目が、絵と驚き顔のティエドールを行き来する。
その手が指差している先を見て、ティエドールは感心気味に頷いた。
どうやら新米の我が息子は、その変化に気付けたらしい。