第3章 ◆優先順位(神田)
「は、ふ…ッも…っ」
「…もっと?」
「違…っも、ギブ…」
すっかり全身から力が抜けて、足腰が覚束ない月城の体を支えて抱く。
僅かに顔を離して唇を解放してやれば、唾液で艷やかに濡れたそこから零れた声は、弱々しく白旗を挙げるものだった。
なんだよ、これくらいでもう降参か。
肺活量ねぇな。
体を支えたまま近くにある顔を改めて見れば、もう見慣れた林檎のような顔をしていた。
たださっきと違うのは、その潤んだ目元と浅く息衝く濡れた唇。
酸素不足か、どこか掠れた声は俺の耳には毒だった。
声だけじゃない。
その潤んだ目も上気した顔も、弱く縋る体も濡れた唇も。
まるで食べて下さいと言わんばかりの姿に、またぞくりと背筋が粟立つ。
確かな"欲"が頭を擡げて、俺の脳内を支配しようとする。
「…これくらいで根を上げんじゃねぇよ」
「っ!?」
喰らい尽くしたくなる衝動を抑えて、その体を抱き上げる。
これ以上触れていたらその支配に塗れてしまいそうで、力を失った軽い体をベッドの上に座らせた。
「な、ん…」
「足腰立たねぇんだろ。座ってろ」
どうやらその行為がそういうもんだと勘違いしたらしい。
慌てる月城の誤解を解く為に、下手に触れずに同じに隣に腰掛けた。
正直、まだ触れていたい。
塞いだ唇も支えた体も、どこもかしこも柔らかくて。
そんな月城の存在を確かめるように触れているのは、心地良かった。
ただ。
頭の隅に身を潜めた"欲"は、萎んでも決して消えちゃいない。
ずっと触れていれば、その柔らかい体に俺という存在を刻み付けたくなる。