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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第3章 ◆優先順位(神田)



 最初は服を掴んでいただけの体が、ほとんど力を失くして俺の体に凭れてくる。
 そこまでいくとさすがに一旦、俺の思考は止まった。


「ッは、…っ」


 口を解放してやれば、大きく息を吸いながら力なく顔が胸に凭れる。
 そんな月城の体は大人しく俺の腕の中に収まったまま、逃げる素振りを見せなかった。
 逃げる気がないというより、逃げる気力がないだけなんだろうが。


「やっと抜けたな、力」

「っ…こ、んなされたら…抜ける、から…っ」


 強張っていた肩の力も、力んでいた表情も消えて。
 俺の腕に身を預けたまま、赤い顔で見上げてくる月城につい笑みが漏れる。

 そんな林檎みたいな顔で睨んでも、効果なんてねぇよ。


「絶対、未経験じゃない…」

「あ? まだ言ってんのかそれ」


 そして項垂れたかと思えば、また否定しに掛かってきた。

 お前な…何度言ったら信じるんだよ。
 大体、お前だって未経験なんだろ。
 そんな奴がなんでキスの経験の有無がわかんだよ。
 俺だってお前の経験なんて、キス一つでなんかわかるわけねぇのに。

 …まぁ、そのぎこちなさで下手なことはわかるけどな。


「相手は女神様ですか…禁断の女性に手を出しちゃったんですか…」

「……だから誰だよ、その女神って」


 …出やがったな、意味不明発言。
 今はこれ以上突っ込む気はないが、今度問い質してやるか。

 女神なんて奴がいるなら、ぜひ見てみたいもんだ。
 ……他の女に興味なんてねぇけど。

 とりあえず今は、そんな問いかけより優先したいことがある。


「女神だかなんだか知らねぇが、俺はこっちの方がよっぽどいい」

「な──…んっ」


 項垂れたままの月城の顎に、手をかけて持ち上げる。
 上がる顔に声を漏らして薄く開いた口を、そのまま塞いだ。


「…っ」


 驚いてはいるものの、力の抜けた月城の体は逃げる素振りを見せない。
 さっきと同じに舌で触れれば、今度はぎこちなくも応えてくる。

 嫌がってはいないんだろう。
 そんな月城の反応に、ぞく、と背筋が粟立つ。

 感じたのは"欲"。
 このまま月城の体全部、喰らい尽くしたくなるような"欲"だった。









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