第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
架空の存在だと笑うだろうか。
「ヒーロー…?」
そう予想していた少女の反応は違った。
「それって…スーパーマンっ?」
驚きで丸くなるオーシャンブルーの二つの瞳。
弾んだ声は疑っているようには見られない。
そんな純粋な心を前にして、ティエドールはくすりと微笑み頷いた。
「みたいなものかもしれないねぇ」
「じゃあ…バットマンだったりっ?」
「ああ、似たような仲間ならいるよ」
「ほんとっ? キャットウーマンはっ?」
「どうだろうね。女性のヒーローならいるよ」
「スパイダーマンもっ?」
「うーん…そうだね。蜘蛛の糸ではないけれど、似た武器を持った仲間ならいるかなぁ」
次々と弾んだ声で問いかけてくる少女に、ついついティエドールも真剣に答えてしまった。
目を輝かせて信じているものだから、つい楽しくなって。
"正義"と言えるかどうかはわからないが、確かに守るべきものの為に戦っている。
そんなエクソシスト達はある意味"ヒーロー"と謳われても良いものかもしれない。
「おじさん、すごい人なんだ…!」
「はは、ありがとう」
両手の拳を握って声を上げる少女に、少しばかり照れ臭さが混じる。
少女が名を挙げた、アメリカンコミックに載っている数々のヒーロー達。
彼らもエクソシストと同様、一銭の得にもならないことをしているが、きっとこんな期待と尊敬に満ちた目を人々から向けられているのだろう。
そしてそれだけで悪と戦えている。
なんとも見習いたくなるような、惚れ惚れする姿だ。
こうして無垢な少女が憧れるのも無理はない。
「でも、それなら大変だね」
「ん?」
しかしそこに続いたのは弾んだ声ではなく、少し萎んだ声。
目に見えて眉を下げて哀しそうな顔をする少女に、何事かと今度はティエドールが目を丸くした。
「なんで大変なんだい?」
「だって…ヒーローは、いつも悪と戦ってなきゃいけないから」
「…それは確かに大変だ」
まさかそんな答えが返ってくるとは。
見た目は9歳程の少女。
夢だけ見ている歳でもないのだろう。
ティエドール思わず成程、と感心した。