第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
『おい貧弱女! お前もうだこだ言わず黙って待ってろッ』
「ご、ごめんなさいね神田く…」
「ミランダさんが謝る必要はないから。何もうだこだなんて言ってないでしょ。そして貧弱女って呼ぶのやめてってば!」
『…あ?』
これではただの八つ当たりだ。
おどおどと謝るミランダを手で止めながら、雪は庇うように同じに声を上げた。
すると、その声で誰か悟ったのだろう。
一瞬の沈黙の後、神田の腑抜けた声がゴーレムから零れ落ちた。
「なんかもう動かれる方がややこしくなりそうな気がするから、そこで待ってて! 迎えに行くから!」
『はぁ? なんでわざわざ迎えなんざ。必要ねぇよ』
「わざわざそうさせてる原因はそっちにあるでしょ。それこそうだこだ言わずに待ってなさい! マリ、ユウをそこに足止めさせてて!」
『あ、ああ。手間を取らせて悪いな、雪』
「いいよ。道先案内はファインダーの仕事だし。ということで、ユウはマリの言うこと聞いて大人しく待ってること。じゃ切るから。マリ、また後ですぐ繋げるからゴーレム見てて」
『わかった』
『はっ? おい待て雪──』
ブツッ
神田の抗う声も気にせず、あっさりと無線ゴーレムの通信を切る。
そのまま急いで踵を返すと、雪は背中の荷物から地図を取り出しながらティエドールへと頭を下げた。
「すみません、ティエドール元帥。聞いての通りですので、マリ達の迎えに行って参ります」
「うん、その方が早そうだしね。そうしてあげなさい」
「ありがとうございます。じゃあミランダさんもここで待っ」
「わ、私も行くわッ」
がしっ!と。雪の言葉を遮るように、ミランダの珍しくも大きな声が響き、布手袋をした手がファインダーマントを掴む。
驚いて振り返った雪の目に、真っ直ぐこちらを見てくるココア色の目がぶつかった。