第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「それで、残りの二人は?」
「それが…連絡がまだつかなくて。すみません、元帥。お待たせしてしまって」
「いいんだよ。便りがないのは元気な証拠、とも言うだろう?」
そして情報によれば残り二名、エクソシストが同行するらしい。
ティエドール部隊だからと割り当てられたのか、その二人は彼の弟子である神田とマリだった。
しかし彼らの姿はここにはない。
どうやら別任務が入っていたらしく、そこから直で来るとのこと。
申し訳なさそうに頭を下げる雪に、ティエドールは気にした様子なく片手をひらひらと振った。
千年伯爵の手によりケビン・イエーガー元帥が亡くなった後、次々に他のエクソシストも死へと追いやられた。
エクソシストの数が少ない現時点で、残された彼らは多忙を極めていた。
「大丈夫かしら、マリさん…」
「大丈夫だよ、あの二人なら。少し任務が長引いてるだけだって」
「そう、かしら…だといいけど…」
「大丈夫、大丈夫。少し待って連絡がなかったら、もう一度ゴーレム繋げてみよう」
「ええ、そうね」
尚も不安げな表情を残すミランダを、笑顔で雪が励ます。
そんな二人の何気ない会話に、ティエドールは頬を緩めた。
しきりに身を心配するのは、それだけ相手を思っている証で。
笑顔で大丈夫と言いきれるのは、それだけ相手を信頼している証だ。
それだけ二人は息子達と絆を深め合えたのだろう、と。
教団を離れていた数ヶ月の月日のことを思えば、わくわくとティエドールの胸に微かな期待が浮かぶ。
久々に会う息子達は、彼女達の前でどんな姿を見せてくれるのか、と。
──ピピッ
そこへ噂をすれば影、と言うべきか。
ミランダの無線ゴーレムが受信音を発した。
「は、はいっ」
『ザザ──…ああ、ミランダか? すまない、遅れてしまって』
「マリさん! ううんっ…その、大丈夫なの? 怪我してないっ? 任務は…っ」
『落ち着け、ミランダ。私達は大丈夫だ。無事任務も終えた』
「そ、そう…よかった」
無線が繋がった相手は、どうやらマリらしい。
渦中の人物の声にわたわたと心配するミランダを、穏やかなマリの声が制する。
ほっと胸に手を当てながら、その声にすぐにミランダは笑顔を浮かべた。