第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「それはね、最後まで聞けばわかるよチャオくん」
「え? まだ続きあるんスかっ?」
含みのあるティエドールの言葉に、興味津々に絵と師の顔を交互に見やるチャオジー。
そんな可愛い息子の反応に笑いながら、ティエドールは飲み干して空になったカップに紅茶を注ぎ足した。
「これはそれから、もう少し後になって描いたものなんだ」
「後…っスか?」
「うん。長期任務で教団から離れていた時にね。チャオくん、お茶のおかわりは要るかい?」
「あ、頂きますっス!」
ざわざわと人の声で常に賑わっている、煌びやかな宮殿広間。
ここはロシアのサンクトペテルブルク。
「…凄い」
「ええ、ほんと…素敵」
有名な観光地と言えば、世界遺産にも登録されているピョートル大帝宮殿。
宮殿のシンボルでもある建物をも巻き込んだ巨大で広大な噴水を前に、雪とミランダは目を奪われていた。
「どうだい? 来た甲斐があっただろう?」
そんな二人の反応に満足そうに微笑みながら声を掛けたのは、今回の任務で同行することとなったティエドール。
にこにこと笑う彼の言葉に、二人は素直に頷いた。
元々ティエドールはイノセンス適合者を探す長期任務を任され、ここ数ヶ月は教団を離れ放浪旅を送っていた。
そこに急遽舞い込んできた別任務。
偶々その任務地がロシア内であり、内容的にもティエドールの能力が必要だと判断されたのだろう。
元帥ともなる実力の持ち主であれば、ファインダーも付けず一人で任務に発つことも珍しくはないし、こうして時折舞い込んだ別の任務を引き受けることもある。
今回の任務では先導者のファインダーは雪、そして同行するエクソシストはミランダと、女性二人で形成されていた。