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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)



「眼鏡眼鏡…ああ、あったあった」

「だ、大丈夫ですか元帥…」

「うん、大丈夫だよ。眼鏡は無事だね、割れてない」


(いやそっちじゃなくて!)


 と言いたいが、にっこりと微笑むティエドールの笑顔があまりにも良い笑顔っぷりで突っ込めない。
 そんな雪の心配も余所に、拾った眼鏡を顔にかけると、ふぅとティエドールは穏やかに息をついた。

 クロスやブックマンのような弟子との修羅場にならないのは、このティエドールの懐の広さにあるのだろう。


「でもいきなり殴るのは駄目だよ、ユーくん。吃驚するからねぇ」

「話を聞かない奴が悪い」

「はは、あんなマーくんとミランダの姿を見たらね。父親として嬉しくなったというか」

「だから俺らはあんたの息子じゃねぇんだよッ今マリに話しかけんな」

「え? なんでだい?」

「勘違いすんのも喜ぶのも勝手だが、それであいつの邪魔をすんなって言ってんだよ。迷惑だ」

「ちょ…神田、それ言い過ぎ…」

「言っても聞かねぇ奴にははっきり言うしかねぇだろ」

「…ぅ」


(それは…一理、あるけど…)


 細い路地裏の出入口を塞ぐように仁王立ちし、腕組みをしてぴしゃりと吐き出される神田の意見。
 それには納得できるものがあって、雪もつい口を閉じてしまった。
 そうかなぁ、と呟く当のティエドールは、神田の遠慮のない言い草など気にしている様子はないが。


「とにかくここを離れ──」


 そう神田が退却を命じた時だった。
 彼のコートのポケットの膨らみが、急に暴れ出したのは。


「! こいつ…ッ」

「あ。」

「おや? なんだい、それ」


 じたばたと下であのゴーレムが暴れているのだろう。
 もこもことポケットを不規則に揺らす動きは大きなもので、縛られていることにいい加減限界でもきたのか。
 上から神田が押さえ付ける前に、もこっとその金色のボディは姿を現した。

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