• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)



「ぁ…ありがとう、マリさん」

「礼を言うなら私の方だ。今日は美味しいチョコレートを貰ったお返しで、来てるんだから」

「それは…そう、だけれど…っ」


 にこりと微笑むマリに、かぁっと連動するようにミランダの頬が赤く染まる。
 耳を澄ませば辛うじて聞き取れる二人の会話に、雪は成程と頷いた。


(バレンタインのお返しで、お出かけしてたんだ…)


 となれば、ミランダはあのベルギーで買ったチョコをマリに渡すことに成功していたらしい。
 そう悟ると、自然と雪の頬も緩む。

 きっちりと首元までボタンで留めているブラウスは、いつものミランダの教団での姿とあまり変わらないように見えたが、ミモレ丈の白いスカートがぱっと華やかに映る。
 全身真っ黒なワンピース姿の多いミランダだからこそ、その日の姿はいつもと違って見えた。


(ミランダさん、ジェリーさんやリナリーに揉まれてお洒落になったもんなぁ…)


 教団に入団したばかりの頃は、自分に自信がなく俯いてばかりいたミランダ。
 その心に比例してか、暗い地味な格好をしていることが多かった。
 しかしジェリーの栄養ある食事を毎日取り、きちんと睡眠も取るようになれば目の下の隈は段々と薄れ、女性らしい顔を見せるようになった。
 そうしてお洒落番長であるジェリーとリナリーに着飾られて、少しずつだが服装と共に明るい表情を出せるようになったミランダ。

 マリに手を引かれながら並んで歩くその姿は、どこから見ても華やかで綺麗な女性だ。


(マリの為にお洒落したのかな?)


 だとしたらなんて素敵な光景なのか。
 つい雪の口元で笑みが深まる。


「なんか…あの二人、可愛いなぁ」

「うんうん。そうだねぇ」

「見方を変えれば恋人同士に見えるって言うか」

「うんうん。もうそれでいいんじゃないかな」

「だよね…って。え?」


 呟いた言葉に賛同してくれるから、つい顔が綻んだが。
 天地が引っくり返ろうと、あの神田がそんな穏やかに賛同することなどあり得ない。
 そもそもこの声は神田のものではない。
 はたと笑顔を止めて振り返った雪。


「わぁッ!?」


 の目の前に、ぬっと現れた髭を称えた眼鏡の顔に、つい悲鳴が上がった。

/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp