第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「あのマリか」
「そう、あのマリ」
「……」
「……」
「……で?」
「いっ!?」
「マリがいるからなんだってんだよ」
「い、いひゃいいひゃいッ」
一瞬目を瞬きはしたものの、街中に見知った顔がいることは別に可笑しなことでもない。
再び視線を雪に戻し、ぎりぎりと神田の指がその頬を抓り出す。
更にバシンバシンと神田の肩を叩く雪の手が激しさを増した。
「よ、よく見てっマリともう一人ッもう一人いるはらッ!」
「あ? もう一人?」
必死にマリを指差す雪に、怪訝な顔をしつつも仕方ないと再び目を向ける。
よくよく見れば、大柄なマリの体に隠れつつも傍に立つ一人の女性がいることに気付いた。
(……あれは…)
神田の目に映った者。
ココアブラウンの癖っ毛に、線の随分と細い体を持つ女性。
それはエクソシスト仲間である、ミランダ・ロットーの姿だった。
「あいつは…貧弱女か」
「そう、貧弱おん…って。その呼び名はどうかと思う。ちゃんと名前で呼んであげて」
「……」
「……ミ、ミランダさんって名前が」
「で? あの貧弱女がいるからなんだってんだよ」
「い"! いだいいだい! だから抓るのやめへっへばッ!」