第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「さっきから何百面相してんだよ」
「ぃ、いや別に…とにかくっ今日は私の奢りってことでっ」
「いい。要らねぇ」
照れ顔を背ける雪を見る神田の口から間髪要れず吐き出されたのは、あっさりとした拒否の言葉。
あまりのあっさり具合に思わず目を剥く。
「んなっ…だから人の好意をなんだと思っ」
「俺より低賃給金の奴に奢ってもらう気はねぇ」
「……え?」
「…奢ってもらう気は」
「いやそのもうちょっと前」
「俺より低賃給金の奴」
(え。何)
「……エクソシストって給料貰えるの?」
「金で不自由したことはない」
(ま じ で か)
初めて知った事実に、ぽかんと口が開いてしまう。
確かに"神の使徒"なんて呼ばれるくらい、教団にとって貴重な存在であるエクソシスト。
がしかし、金銭なんて興味ないだろうと思っていた神田がこうもサラリと告げるとは。
(どんだけ給金貰ってんの…)
エクソシストとファインダー。
同じ任務をこなす仲間として、任務時の危険性はそう変わらないはずだろうに。
寧ろAKUMAと戦う術のないファインダーの方が、命を落とす危険性は高いかもしれない。
それでも待遇の違いがあるのは、やはりイノセンス適合者であるか否かの違いなのか。
「(別に…エクソシストになりたいだなんて、今更思わないけどさ…)…不公平」
「あ?」
なんだかちょっぴり悲しくなる。
「…じゃあ神田が奢って下さい寧ろ」
「は?」
「私の為に来たんなら奢って下さいこのやろう」
「頼み事か脅迫かどっちだよ」
「…ぅぅ」
(私だって命張ってるのに。寧ろこんな暴君と毎回組まされて神経擦り減らしてるのに…!)
日々その暴力癖ある拳を、体に受けてさえもいるのに。
寧ろ暴君専用ボーナスを貰いたいくらいだと、恨めしそうに呻きながら俯く雪。
を、見ていた神田は呆れ顔で溜息を一つついた。