第3章 ◆優先順位(神田)
「月城」
仕方ないと、幾分意識して口調を緩めて名前を呼んでやる。
「こっち向け」
「…何…」
するとどこかほっとした様子で、月城の顔が上がる。
なんでほっとしてんだ、やっぱりビビってたのか。
そう突っ込みたくもなかったが、それより優先させたのはこいつに触れること。
さっきは我慢したんだ、動くなよ。
「──っ」
顔を上げて"それ"を月城が頭で把握する前に、顔を寄せて唇を重ねる。
重なる瞬間、条件反射のように月城はぎゅっと口と目を強く閉じた。
「…だから、そんな力入れんなって」
そういやローマでも似たような反応してたな、こいつ。
…初めてだから不慣れなのか。
そう思えば不快なんてないし、寧ろ可愛げがあるとも思える。
……思えるが、
「力抜け。無理矢理してる気になるだろ」
どうにも一方的な行為に思えてしまうのも事実だった。
もう少し力抜け。
構え過ぎだろ、頭叩く時と同じ身構え方だぞそれ。
……。
……もしかしてよく頭叩いてる所為じゃねぇよな、それ。
「……」
僅かに生まれた罪悪感みたいなもんに、自然と月城の頬に優しい手付きで触れていた。
片手を添えて、親指で促すように唇に触れる。
吐く息もかかる程の距離で促せば、恐る恐る月城の目が開いて。
「っ!」
閉じた。
それはもう勢いよく。
「お前、どこの珍獣だその反応」
「ぅ。だって…っ」
ビクついてはいないが、ある意味それと似た反応に思わず呆れる。
どこの小動物だよ、お前。
「さっきは我慢してやったんだ。俺の言うこと聞け」
「さっきって…何、それ」
やっぱり気付いてなかったか。
あんな無防備に誘う顔、こいつはわざと作れるような奴じゃないだろうし。
…だからこそ、俺には効果がでけぇんだよ。
無意識に浮かべるくらい、こいつが俺に心を寄せているんだと思うと………触れたくもなるだろ。色々と。