第3章 ◆優先順位(神田)
「それに日差しを避けるだけじゃなく、防寒にもなるし」
「んなの平気だっつったろ」
「神田じゃなくお花の為の防寒です」
「……」
…なんだよ。
俺の為じゃなく本気で花の為らしい。
そんな月城の言葉に、思わず苛立つ。
苛立つのに、
「別にあって困るものじゃないし。そんな顔しないの」
取り付けたカーテンを引きながら、振り返って月城が笑う。
そんなこいつの顔を見ると、自然と体の力が抜けた。
苛立っていた思いが、すっと溶けるように消えていく。
「…はぁ」
つい溜息を零せば、月城の笑みは満面のものに変わった。
…クソ、言い返してやりたいのに返す言葉がない。
………そもそも、返す気もない。
他人事なのに、自分のことのように真剣にこのドでかい花瓶を街中で選んでいた時と同じ。
俺のことなのに、自分のことのように真面目に考えて楽しそうに笑うもんだから。
そんな月城に、それ以上つまらないことを言う気は起きなかった。
……まぁいいか。
こいつが楽しそうにしてんなら。
………ただ、
「そうだな、あって困るもんじゃない」
ふと思いついてしまった。
その機会を見逃す気は到底なかった。
「無駄に外を気にしなくてよくなるか」
「…神田?」
カーテンの上の留め具を確かめていた月城の背後に近付いて、隣に片手をつく。
振り返った月城が怪訝な顔で見上げてくる。
「外を気にするって…なんのこと」
問いかけながら、さり気なく横から抜け出そうとする体に、離れる前に抜け道も塞ぐように、カーテンの上から窓ガラスに手をついた。
簡単に両腕の空間の中に収まった月城は、困惑気味に見上げてくる。
「何しても見えずに済むだろ」
「……」
ここまでやってそう言う意味がどういうもんか、わかんねぇことはねぇだろ。
敢えて曖昧な表現で伝えれば、月城の顔は忽ち──…オイ。
何ビクついて顔俯かせてんだ。
どんな想像したらそんな反応になるんだよ。
ビビんな。