第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「神田っ? なんで…」
「いいから行くぞ。さっさと付いて来い」
「ちょっ…待ってよ!」
アレンの元にティムキャンピーを返さないのは、彼に映像を見られてしまう恐れがあるから。
科学班に先に預けに行かないのは、
(足止め喰らったらどうするんだよ)
ジジやジョニー達を始め、何かとちょっかいを掛けてくる人物が多い科学班。
団服とファインダーマントの任務姿で並んでいることは多くとも、私服姿で二人でいたことなど終ぞ無いに等しい。
そんな神田と雪を見れば、物珍しさに彼らが声を掛けてくるのは目に見えていた。
最悪質問攻めなんて喰らって捕まってしまえば、今日の予定が消えてしまう。
そんなこと、神田には願い下げだった。
雪が欲しいと言ったから、簡単に本音を口にしない彼女が欲した言葉だから。
彼女の為に休日のトレーニング予定も全てキャンセルして空けた一日。
それを科学班連中の単なる興味で潰されるなんて、真っ平ごめんだ。
「待ってって、神田…っ」
後ろから小走りで追いかけてくる雪の気配。
慣れたその気配を背中で感じながら、神田の足は教団の門を潜るまで止まることはなかった。
その思いに比例するかのように。