第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「ティム、大丈夫?」
「ガァッ」
「…うん。大丈夫そうだね。次の被害を受けないうちに、アレンの処に戻ろっか」
こそこそとティムキャンピーに話しかければ、こくりと頷く金色ボディ。
そんな頑丈ゴーレムにほっとしつつ、苦笑混じりに雪は的確な助言をしてあげることにした。
神田は歩く凶器のようなものだ。
傍にいれば、時にゴーレムだって容赦なく被害を喰らう。
「よし。じゃあ行こっか、神──」
「待て」
「ガァッ」
パタパタと大人しく飛び去ろうとするティムキャンピーの長い尻尾を、再びガシリと掴んだのは神田の手。
「こいつは連れてく」
「えっ? なんで…」
「戻って来たらその足で科学班に持ってけ」
「…別にアレンに預けた後でも…」
「いいからそうしろってんだよ。それまでは俺が預かっておく」
「あっ」
ぐるぐると長い尾を丸い金色ボディに巻き付け、あっという間に毛糸の玉のように変えてしまうと、神田は乱雑に自分のコートのポケットに突っ込んだ。
巻きつけられた己の尻尾で声も発せないティムキャンピーは聊か憐れにも思えたが、なんせ神田の視線の圧が強い。
「いいな」
「…なんでそんなイラついてんの…」
思わず呟く雪の問いかけに、神田はふんと素っ気無く反応を示しただけだった。
スタスタとそのまま歩き出すものだから、雪も慌てて後を追う。
「じゃあ先に科学班に寄って──」
「後でいい」
「なんで」
「……」
「?」
後でも先でもそう大差ないだろうが、先に科学班に預けていればポケットをこんもりとゴーレムで膨らませる必要もなくなる。
しかし名案とばかりに提案すれば即刻却下。
意味がわからず首を傾げる雪の前で、神田は自然と早くなる自分の足に気付かずにいた。