第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「ストップ! ちゃんと科学班に持って行って映像消してもらうから…!」
「誰に消してもらうつもりなんだよ。リーバーか? ジジかジョニーか。全員野郎だろうが。…とりあえず中身潰しておけば消えるか」
「わーッ! 待って待って! キャッシュ! そうだキャッシュがいるから!」
「は? 誰だよそいつ」
「えっ知らないの? 新本部移動の時に他支部からやって来た女性研究員だよ。タップの妹の!」
「……………知らねぇ」
「……相変わらず他人に興味ないんだね…」
ぐいぐいと雪が抱き付いた腕を引っ張れば、知らない名を耳にやっと神田の足は止まった。
キャッシュ・ドップは、その姓の通り、科学班であり旧本部がAKUMA襲撃を受けた際に命を落としたタップ・ドップの妹。
ふくよかな体や分厚い唇はタップそっくりで、出会った瞬間にジョニーがタップと間違えて涙ながらに抱き付いたことは有名な話である。
しかし神田はそんな新しい科学班の顔、それも珍しい女性研究員のことを全く知り得ていなかったらしい。
他人に滅多に興味を示さない、名前だってまともに呼ばない。
そんな神田らしいと、雪は感心すらした。
「とにかく、キャッシュなら映像見せても問題ないし。ちゃんと消してもらうよ。だからティムに変なことするのはやめて」
「別に変なことするつもりなんかねぇよ」
「するでしょ。絶対。その目AKUMAを斬る時のそれと一緒だから」
「……」
何度も間近で神田の戦闘を見てきたからわかる。
きっぱり断言した雪が首を横に振れば、神田は忽ち口を閉じた。
確かに映像を消す為に、一度中身でも割ってみるかとは考えていた。
だからこそ否定できない。