第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「今朝姿が見えなかったから、アレンの処に戻ったのかと思ってたけど…まだ傍にいてくれたんだね。ありがとうティム」
「ガァア~ッ」
「ふふ。でももう大丈夫だよ。アレンの処に戻っていいから」
「ガァッ」
「ん? まだいるの?」
何を喋っているのかはわからない。
しかしもぞもぞとニットカーディガンの袖口に潜り込む姿を見るところ、雪の傍にいるつもりなのだろう。
もこもこと今度は袖を膨らませながら中を進みゆく球体に、唯一覗く長い尾がゆらゆらと揺れる。
「ならティムも一緒に行」
「く訳ねぇだろ! モヤシん処に帰れ!」
「ガァッ!?」
その尻尾をガシリと掴んだのは神田。
力任せに引っ張ると、ずぼっと勢いよく抜き出されるティムキャンピー。
そのまま息つく間もなく大きく腕を振るうと、まるで野球ピッチャーの如く神田は金色の球体を投げ飛ばした。
ズドンッ!と音を立てて廊下の壁にめり込む、教団一のマスコットゴーレム。
「ティム!? ち、ちょっと神田!いきなり何すんの…!」
「いきなりもクソもあるか! お前も何セクハラ許してんだよ!」
「セクハラって! 相手はゴーレムだよッ?」
「記録機能ついてんだろが! 今すぐ撮られた映像消せ!」
「えっ?…あ!」
言われて気付いたのか、僅かに雪の頬が赤く色付く。
そんな反応さえも今は神田の短い堪忍袋を刺激するものでしかなく、荒々しく舌打ちをすると自ら足をセクハラゴーレムへと向けた。
「いい。俺が消す」
「ち…ちょっと待って神田…! 消すってティムに何するつもり…!?」
ゆらりと殺気立った気配を纏い、壁にめり込んだティムキャンピーに手を伸ばす様はまるで破壊神。
このままではティムキャンピーの本体そのものが破壊され兼ねないと、雪は慌てて神田の腕に噛り付くように縋り止めに掛かった。