第3章 ◆優先順位(神田)
嫌なことじゃ、なかったが。
「うん、ぴったり! 自室はどこも同じ窓枠サイズでよかった」
一度自室に立ち寄って、俺の部屋に来た月城の目的。
それは下らないことだった。
何も取り付けられていない部屋の窓に、手早く取り付けたのはシンプルなカーテン。
何かと思えば、生活感のない俺の部屋に物を増やすことが月城の目的だったらしい。
別に俺の体は暑さも寒さも平気なんだ、必要ねぇだろ。
そんなもの。
「…別に必要ねぇって言っただろ」
「これは神田の為じゃなく、このお花達の為です」
言えば速攻首を横に振って、月城は笑顔で否定した。
「切り花って、実はあんまり日光に当てない方が長持ちするんだって。ラビから聞いたんだ」
「あの馬鹿兎…余計なこと教えやがって」
その口から出てきた予想外の名前に、思わず呻る。
本当に余計なことしかしねぇな、あいつ。
今度会ったら月城に余計な入れ知恵すんなって脅しておくか。
「なんで」
「丹念にそんな世話するから、いつまで経っても片付けられねぇだろ」
「お世話係に任命したのは神田でしょ。私は頼まれたことをやってるだけです」
「……」
…確かにそれは月城が正論だった。
バレンタインという下らない行事で押し付けられた大量の花の世話を、こいつに押し付けたのは俺自身。
花の水替えなんてもんさえも面倒で、月城が部屋に飾ろうと言い出したことだから、お前が責任持って世話をしろと言った。
…そう言った手前、下手に言い返せない。
月城に花の世話役をしろと言い出したのは俺自身だ。
それこそその言葉に責任を持たないと、後で突っ込まれたら返す言葉がなくなる。