第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「だからわかるの。…マリさんは私に注意も指摘もくれるけど、"駄目"とは言わないでしょう? 私を否定はしないから…くれる言葉は、全部私の為に言ってくれているものなんだって」
お前は駄目だ、使えない、と詰り怒っていた仕事先々の人達とは違う。
マリが厳しくしてくれるのは、自分のことを思ってくれているからだ。
「わかるのよ。…嬉しいの。マリさんが見ていてくれるなら、私何度だって頑張ろうって思える。だから…そんなふうに自分を非難しないで」
「……ミランダ…」
「っていつもネガティブ発言してる私が言う言葉じゃないわよねッ! 偉そうに…! あああごめんなさいごめんなさい…!」
ふんわりと柔らかい笑顔を浮かべていたのも束の間。
あっという間に顔を青くして謝罪を連呼し始めるいつものミランダに、ぽかんとマリは呆気に取られた。
それから、ふと。口元が綻ぶ。
「ぷっ」
「! マ、マリさ…わわわ笑った…!?」
「ああいや、馬鹿にした訳じゃないんだ。すまない。…ミランダらしいと思ってな」
あわあわと体を震わせるミランダの頭に、ぽふりと大きな手を軽く乗せる。
「少し、もったいないな」
「も…もったいない…?」
「もっと自分に自信を持って良いくらい、素敵なものを持っているのに」
癖の強いココアブラウンの髪を優しく撫でて、マリは目を細めた。
「ああ、でも謙虚な所がミランダの美徳の一つなのかもしれないな」
「マ…マリさん…」
ふむ、と宙を見て考え込むように呟くマリは、果たして気付いているのだろうか。
何気なく掛けたその言葉の所為で、あわあわとミランダの顔が赤く色付いていることを。