第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「マリさんが怒ってくれるのは、私の為でしょうっ?」
「…ミランダ…」
「わ、わかるもの…私にそんなふうに言ってくれる人、今までいなかったから…」
小刻みに震え続ける勢いを抑えるかのように、自身の手で手首を握り締めて。
それでもミランダはマリの服を離すことなく、真っ直ぐにその顔を見上げていた。
「私、すぐヘマをして失敗して…いつも周りに迷惑をかけて。その度によく怒られてきたわ。なんで普通にできないんだって、よく注意されたし私自身もそう思ってた。そのうちに誰も私に構わなくなって…ミランダの傍にいたら不幸が移るって。傍に寄り付かなくなったの」
何かを運ぼうとすれば、落として壊してしまうことはザラ。
何かを作ろうとすれば、完成品とは程遠いものができてしまうこともザラ。
どんな仕事をしても失敗してすぐクビになるから、毎日求人票と睨み合いっこをしていた。
そうして記念すべき100回目の失業記念の日に、絶望に苛まれながら偶然訪れた時計屋で譲り受けた古い柱時計。
それがミランダのイノセンスであり、この黒の教団にエクソシストとして就職することとなったきっかけだった。
初めて駄目な自分を受け入れて、頼ってくれたのはアレンとリナリー。
彼らの為に力になりたいと強く願ったミランダが発動させたのが、彼女のイノセンス"刻盤(タイムレコード)"。
初めて胸を張れる仕事だと思えた。
自分にしかできないことがあると思えた。
それまでずっと失敗をし続けてきた人生。
不幸女と周りに囃し立てられて、ミランダ自身もそう思っていた。
何故いつも自分は失敗をしてしまうのだろう。
何故周りのように"普通"にできないのだろう。
きっと自分が普通の人より劣っているから。
駄目な人間だから。
なのにそれでも"次こそは"と願ってしまう自分がいる。
"今度は上手くやれるかもしれない"と切望する自分がいる。
馬鹿よね、と後で自分で自分を詰る結果になることは、よくわかっているのに。