第3章 ◆優先順位(神田)
「神田って、狭そうに見えて実は凄く広い心の持ち主だったんだね」
修練場を出て廊下を歩いていると、隣をついて歩く月城が弾んだ声でそんなことを伝えてきた。
見れば満面の笑み。
何がそんなに嬉しいのか、意味はわからなかったが…
「…それは褒めてんのか貶してんのかどっちだ」
その言葉の真意もよくわかんねぇ。
褒めるか貶すか、わかり易く言え。
「紛うことなき褒め言葉です」
問えば速攻で親指を立てて応えるドヤ顔の月城に、それ以上何か突っ込む気にはなれなくて口を閉じた。
なんか…面倒臭い。
するとその雰囲気でも伝わったのか、月城はどこか心外そうな目で訴えてきた。
訴えてきたが、無視してやった。
色々と面倒なんだよ。
突っ込んだら話が長くなりそうな気がする。
「あ、そうだ」
「?」
「神田、この後時間ある?」
そんな俺の態度に諦めたのか。
はっと何か思い付いたかのように、唐突に月城が話題を変えた。
「時間?」
「うん」
何かあんのか。
そう問いかけても、月城はにこにこと笑うばかりで真意は伝えようとしなかった。
…やっぱり面倒臭い奴だな。
まぁ、嫌だと思えば付き合わないから。
こうして譲歩してる分、面倒だが俺には嫌なことではないらしい。