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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)



 それから凡そ5年程後のことだった。

 それは教団内部に設置された書庫室の一角。

 様々な風景を見て回ることが好きなティエドールは、自然の中を散策したり街中を散歩するのが休日の主な過ごし方。
 しかし穏やかな時間を過ごす為に腰を落ち着けて、お茶をしたり、趣味の絵画に走ったり、はたまた読書をすることも少なくはない。

 その日はなんとなく興味の引く一冊でも見つからないかと、広い書庫室に足を向けた。
 そこで耳にしたのは、静かな書庫室には不釣り合いな騒音。


「きゃぁあッ」


 女性のか細い悲鳴。
 それからばったんっと何かが地面と衝突する音。


「ごっ…ごめんなさいごめんなさいぃい!」


 それからそれから、捲し立てるような謝罪。

 一体何があったのか。
 興味を惹かれるままに音の方へと向かえば、書庫室の奥。
棚の間で沢山の本を散乱させている女性が見えた。
 半ば本に埋もれて座り込んでいる。
 襟元まできっちりとボタンで閉められた大人しく真っ黒な婦人服姿。
 同じく真っ黒な癖っ毛の強い髪はバレッタで後ろに一つにまとめられており、その下にある顔はなんとも…今にも泣き出しそうなめそめそ顔。


(あれは確か…ミランダ・ロットー…だったかな?)


 ここ半年程前にエクソシストとして教団に入団した、ドイツ人女性。
 自分の部隊に配属されなかったのは残念だったが、珍しい女性エクソシストということで情報はティエドールも耳にしていた。
 なんでも、一生懸命で努力家だが、それを全て無にしてしまう程の不運とドジ属性の持ち主だとか。


「そう慌てなくてもいいから、ミランダ。落ち着いて」

「で…っでも…ッ」

「私は大丈夫だから。怪我なんてしてないよ」


(おや)


 どうやらそのドジ属性を発揮して、大量の本をぶちまけてでもしてしまったのか。
 困っている女性に手を差し伸べるのは当たり前のこと。
 棚の奥へと進みゆこうとしたティエドールの足を止めたのは、落ち込むミランダの傍にいた人影だった。

 聞き覚えのある、落ち着いた穏やかな声。
 それは我が部隊の息子の一人、ノイズ・マリのものだった。

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