第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
ぎこちない雪の反応。
それでもティエドールは、その手を小さな頭から離すことはなかった。
「雪ちゃん。夢はね、お金なんて出さなくたって見られるものなんだよ」
そして優しく声をかけた。
視線を合わせたまま、にっこりと目の前の少女に笑いかける。
「君達は幾つだって夢を見ていいんだ。その可能性を秘めてるからね」
「可能性…ですか…?」
「うん。君達の進む道は先に幾つだって張り巡らされてる。いくらだって広がってる。決して一つだけじゃない。自分の心一つで、案外道は拓かれたりするものなんだよ」
それは夢物語のようにも聞こえるけれど。決して不可能ではないと、ティエドールは思っていた。
彼女にも、そして神田にも。
この教団に縛り付けられている"理由"がある。
しかしそれが世界の全てじゃない。
彼らの心次第で、いくらだって世界は塗り替えられるのだ。
「任務で色んな国を回るだろう? 色んな景色を見て、色んな人に触れて、色んな文化を学んで、色んな生き方を知るといい。何よりも怖いのは何も知らないこと」
自分の世界はここだけだと、閉じ篭ってしまえば道は拓けない。
元帥として考えれば、教団で働く者に助言するような内容ではなかったけれど。
教団(ここ)だけではなく、もっと広い世界に目を向けて欲しいとティエドールは思った。
彼女にも、そしてその隣で仏頂面をしている彼にも。