第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
「夢…」
ティエドールの心配を余所に、何を思い浮かべているのか。ぽつりと呟く雪の顔から表情が消える。
そして少し俯きがちに、少女は再び小さな口を開いた。
「夢って、お金を出せば見られるものなんですか」
ぽつり。
小さな小さな声で零れ落ちた少女の言葉は、飾り気のない本音のように聞こえた。
どう答えるべきか。
一瞬ティエドールが迷いを見せた間に、雪ははっとすると慌てて一歩後退っていた。
「すみません。なんでもないです」
ふるふると首を横に振って、見せた表情はもう無表情とは違うもの。
(…ああ、)
不意になるほどと、ティエドールは納得してしまった。
彼女も彼女なりの何かを抱えている。
だからこそ、この子供らしかぬ性格を作り上げているのかもしれない。
この幼さで一人教団に入団している時点で、大なり小なり何か理由はあるのだろうけれど。
「…ん。そっか」
ぽふりと、その小さな頭をティエドールの手が優しく撫でるように触れる。
ぴくりと微かに反応を示した雪は、恐らくどう応えるべきかわからないのであろう。
ぎこちなく視線をさ迷わせながら、緊張するように体を強張らせていた。
ああ、とティエドールは僅かに眉を下げた。
この反応で充分だ。
彼女は恐らく、人と触れ合うことに慣れていない子供。