第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
お互いにそれぞれ生い立ちも年齢も大きく違う。
性格もまるで正反対のものだ。
しかしそんな神田とマリには、似通っていることが一つ。
〝人に愛されなかった存在〟
人造使徒計画の実験の対象として扱われ、戦いと死と血の混じる世界で生きてきた。
だからこそ師としてだけでなく、時には父として二人を溺愛してきたティエドール。
その愛情表現は少々過度なるもので、呆れたり邪険にされたりはしてしまっているが。
だからこそ彼らを心底愛したいと思うし、彼らにも自分のように誰かを愛して欲しいと思う。
そんな父のような思考を持つティエドールにとって、それは青天の霹靂だった。
「…神田、」
「んだよ」
「次の任務地は砂漠だから…水、持っていった方がいいよ」
「必要ない」
「必要ないって…それじゃイノセンス見つける前に脱水症になるから」
「ならねぇよ」
「そんなのわかんないでしょ。なってからじゃ遅いんだよ」
「うっせぇな。ならないもんはならないつってんだろ。人の心配より自分の心配でもしてろ。テメェが脱水症になったら、また置いてくからな」
旧教団本部。
広く長い廊下をスタスタと歩く、真っ黒な団服姿の少年。
そんな神田の後ろを、数歩遅れてついて歩く白いマント姿の少女。
よく見るエクソシストとファインダーの二人組の光景だ。
しかし些か奇妙に見えるのは、二人共にまだ幼さの残る顔立ちをしているからだろう。
見た目は10代そこそこ。まだまだ背も低く手足の細い、幼き子供。
そんな二人が、大人を一人も同行させずに任務に向かう。
その姿はどこか頼りなくも見えた。
けれど自分の部隊に入り、エクソシストになってすぐにメキメキと実力を付けた神田の強さを、ティエドールは充分に知っていた。
もうエクソシストは彼一人でも、任務を任せられる程の力を持ち合わせている。
そんな神田と組まされている、近い年頃の少女。
白いフード付きマントと背負った大きな荷物と結界装置は、ファインダーの証だ。
最近我が息子がよく組むようになったファインダーの少女がいたと聞いていたが、恐らく彼女のことだろう。
偶々見かけた広い廊下の隅。
ティエドールは自身の顎に手をかけると、ふむ。と一人その場で頷いた。