第8章 ◆Tresor(神田/マリ×ミランダ)
次に、ノイズ・マリ。
神田と似た境遇で自分の部隊に所属した彼だが、その性格は幾分複雑なものだとティエドールは思っていた。
神田に比べれば物腰の柔らかい温厚な性格で、誰に対しても柔軟な受け答えで良好な関係を保つことができる。
傍目から見ればマイナスな要素など見当たらない、"出来た大人"だ。
しかしマリは神田とは正反対に、自分の意見を押し切ろうとはしない。
任務時の鋭い気迫はあれど、生活上ではそんな顔はほとんど見せない。
誰にでも合わせて誰にでも笑顔を向ける。
その場その場で取り繕うような、薄っぺらな笑顔の貼り付けとは違う、自然と身に付いたもの。
だからこそ尚のこと複雑なのだ。
そんな彼もまた、神田と同じ世界で育ったエクソシスト。
その肉体は神田とは違い本人のものではあるが、教団の人体実験に取り込まれかけた人物だ。
実験台になろうとしていたマリを救ったのは、他ならぬ神田だった。
血と錆び付いた鉄の臭いに塗れたアジア第六研究所の地下で、二人はどのように出会い、どのような言葉を交わしたのか。
その経験故か、普段は誰にでも遠慮なく喧嘩を売る神田が、マリにだけは際立った威嚇をしない。
そしてマリもまた、神田には優しさだけの押し売りなどしない。
そんな二人の間には、目に見えぬ繋がりがあるようにティエドールは感じていた。