第3章 ◆優先順位(神田)
「…そういう顔は、場所を考えてやれ」
俺の前で見せんのはいいが、他人に見られるのはいけ好かない。
ぼそりと告げれば、月城は意味がわからないとばかりの顔で俺を見た。
答える代わりに視線をもう一度リナ達に向ければ、追うように月城の顔も後方に向く。
「雪と神田じゃない」
「…あ」
そこでやっとリナ達の存在に気付いたらしい。
「また一緒に組み手やってたの? やっぱり仲良しね」
「…というかまた雪さんの顔抓ってませんでした?今」
ジト目で見てくるモヤシのその視線と言葉を、目を向けることもなく無視してやる。
お前が来るから抓る羽目になったんだろ。
「折角だし、私達も組み手混ぜてよ」
「…気分じゃない」
「え?」
本当にそんな気分じゃなかったから、迷わず告げて腰を上げた。
驚き見てきたのは、誘ってきたリナじゃなく月城だった。
なんだよ。
「充分汗は掻いた。シャワー浴びる」
「充分って…」
何か言いたげに見上げてくる月城の意図はわかる。
いつもならこんな短時間で鍛錬を切り上げたりしない。
だが気分じゃないのは本当だった。
またいつふとした瞬間に、月城がさっきみたいな顔を見せるかわからない。
それをリナならまだしも、モヤシに見られんのは心底嫌だった。
「行くぞ」
「え?…あ、うん」
リナとの鍛錬は乗り気じゃないし、それなら無駄に此処にいる意味もない。
リナ達に背を向けたまま月城を呼ぶ。
さっさとこいつを連れて、此処から出るか。