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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第3章 ◆優先順位(神田)



 それは唐突に魅せられた顔だった。


「…ありがとう」


 休日にいつものように誘った、修練場での組み手の合間。
 休憩中に見せた月城のその顔は、俺の目を止めるには充分なものだった。

 頬に添えた俺の手に、顔を傾けて寄せる。
 まるで掌の感触を実感するかのように、目を瞑って。


「その言葉だけで、キツさなんてなくなった」


 相変わらず簡単に自分の思いを口にできない月城は、何かを抱えるように俺に伝えたいことがあると言った。
 言ったものの、その内容までは口にできなくて。
 そんな月城に、言えるようになるまで待つと俺は応えた。

 自分が辛抱強い人間だなんて思っちゃいない。
 物事をはっきり口にしない奴も好きじゃない。
 なのに月城のこととなると、いくらでも待てると思えた。

 こいつを俺の傍にちゃんと繋いでおきたいから。
 その為なら、いくらでも待ってやる。

 そんな俺の気持ちに応えるかのように、月城が見せたのは。


「ありがと…神田、」


 俺の掌に頬を擦り寄せて、目を瞑ったまま口元を綻ばせる。
 それはあまりに無防備で、あまりに誘うような顔だった。


「……」


 じり、と胸が焦げ付く。
 いつもならそこまでで止めていた想い。
 でも今の俺とこいつは、そこまでの関係じゃなくなった。
 その事実が、僅かに空いたお互いのこの距離を埋めた。

 俺の手に頬を寄せて目を瞑ったままの月城のその顔に、顔を寄せる。

 そのまま近付く距離にお互いの唇が触れて──


 むにっ


「………………なにふんへふか」


 月城越しに遠目に見えたその姿に、咄嗟に距離を置いて添えたその手で頬を抓った。

 その間、0.3秒。

 その動作のおかげで、浮かんでいた無防備な月城の表情は一気に崩れ去る。


「……チッ」


 内心そのことにほっとしながら、近付いてくるその二人に思わず舌打ちをした。
 見慣れた二人は、俺と同じエクソシストであるリナとモヤシ。
 大方二人で稽古にでも来たんだろうが…それなら余所でやれ。
 なんでこっちに来るんだよ。

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