第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
「──くしゅっ」
「…そろそろ食堂に行きましょうか。温かい飲み物でも飲みに」
「うん。アレンくんはクリスマス特別メニューも食べなきゃね?」
「そうですね」
外気に触れてくしゃみを漏らす椛に、外ではしゃぐティムを呼び戻して窓を閉める。
椅子に掛けていた毛糸の上着を椛に羽織らせながら、本当に今日は素直になってみることにした。
「食べ終えたら今日はまったりしようかな」
「え? 休日のトレーニングはしないの?」
「誕生日ですし偶にはいいかなって。椛も付き合ってくれますか?」
「! うんっ」
誘えば、途端に笑顔を浮かべた椛がちょこちょこと傍に寄って、僕の服の裾を握ってくる。
ああ、本当。
そういうところが可愛いんだって。
「あのね、アレンくん。私、お出掛けしたい所があるの…っ」
「それはデートのお誘い?」
「う、うん…」
「なら、喜んでお受けします」
裾を握る手はそのままに、空いた手を持ち上げて口元に寄せる。
指先に軽く唇で触れて、そのまま視線は椛に絡めた。
「それなら僕も、お願いが一つあるんですが」
「なぁに? あ、誕生日プレゼント?」
「それは椛に任せますよ。椛が選んでくれたものが欲しいから」
「そう?…そっか。うん、わかった」
もう何か用意していてくれてるのなら、我儘は言わない方がいい。
そう思って首を横に振れば、椛はほっとしたように頷いた。
…やっぱりもう何か用意してくれてたのかな?
なんだろう、楽しみだなぁ。
「じゃあなぁに?」
「デートが終わったら、ジェリーさんのディナー料理にも付き合ってくれますか?」
「そんなこと? 勿論、いいよ。ジェリーさんのご飯美味しいもんねぇ」
「それとデザートも」
「うん。クリスマスケーキ?」
「いえ、椛で」
「…え?」
「椛で、お願いします」
「……………え?」
にっこり笑って言えば、ぽかんと二度目の腑抜けた声を椛が漏らす。
我儘は言わないけれど、椛から貰えるものなら全部欲しい。
僕、これでいて貪欲な人間なんです。
なんせ師匠譲りですから、欲に忠実なのは。