第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
「…ありがと」
上手く笑えなかった。
顔は勝手に緩んで、みっともない笑顔になってしまったかもしれない。
それでも胸をじわじわと包む歓喜の気持ち。
たったこれだけの言葉がこんなに響くなんて。
椛と出会わなければ、知らなかったことだ。
「…アレンくん?」
そのまま目の前にある華奢な体を抱き締める。
男である僕より、ずっと柔らかくて脆い体だから。触れる時はいつも気遣って触れていた。
だけど今は感情のままに、力が入ってしまう。
止められなかった。
「ありがとう、椛。…今までで一番嬉しいクリスマスです」
「………ジェリーさんのクリスマス特別メニュー、まだ食べてないのに?」
「うん」
「……誕生日プレゼントもまだあげてないのに?」
「うん」
椛を抱き込んだまま、噛み締めるように頷く。
うん、本当だよ。
こんなに満たされて迎えたクリスマスの朝はなかった。
……ああ、一つだけ。
初めてこの日を僕の"誕生日"としてマナがくれた時も、似たような大きな衝撃があったかな。
「私も。今までで一番嬉しいクリスマスだよ」
「…椛も?」
「うん。だって、」
じんわりと腕の中の温かい存在に浸っていると、背中に小さな手が回されて抱き返される。
嬉しい反面、その言葉に疑問も抱いて。
僅かに顔を離して問いかければ、すぐ傍にある椛の顔が優しく綻んだ。
「私が一番に、アレンくんに"おめでとう"って伝えられた日だから」
…本当、これ以上胸にくる言葉をくれるなんて。
椛は凄いと思う。