第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
「ん…おはよ」
緩く返事をしながら、寝そべったまま目の前にある椛の額に自分の額を重ねる。
縮まる距離。
目の前に確かにいる恋しい人と、朝を迎える。
その瞬間だけ、一瞬でもいいから時が止まってしまえばいいのにと思う。
もっと実感していたい。幸福な朝。
カラカラ…
その時、微かな窓の開閉音と共に凍えるような冷たい風が、ひゅうっと背中に吹き当たった。
「っ!? 寒…っ!」
「ティムっ? 窓まで開けてなんて言ってな──」
思わず椛と跳ね起きて振り返る。
すると椛の呼ぶ声の通り、窓の外にはぴょんぴょんと飛び跳ねるティムがいた。
興奮した様子で、あちこち飛び回って空を見上げている。
ティムに目はないけど、確かに見上げてたんだ。
僕には間違いなくそう見えた。
そしてティムが見上げる空の先には。
「わ…雪?」
「ほんとだ」
一面銀色の世界が広がっていた。
薄い朝日が光を増していく。
その太陽光に反射して、光り輝く銀色の雪の世界。
昨夜も少し積もっていたけど、夜にまた雪が降ったのか。
また一層積もったみたいだ。
ティムの体にも降り積もる粉雪は、穏やかだけど止まる気配はない。
…これじゃあ、森でのトレーニングは大変そうかなぁ…。
「朝から雪なんて。今日は寒くなりそうですね…」
「…だね。でも今日はクリスマスだし。ホワイトクリスマスになったね」
「あ。そうでしたっけ」
何気なく椛の口から出てきたクリスマスの名に、すっかり忘れてたと思い出す。
そうだった。
だから昨日はジェリーさんの特製クリスマスフルコースだったんだっけ。
巨大なクリスマスケーキも丸々一匹使った七面鳥の丸焼きも食べられず終いで、凄くガッカリしたなぁ。
……思い出すとお腹減ってきた。
早く食堂に行こう。
「椛、Merry chriむぐっ」
「ちょっと待って!」
「…なんれふか?」
とりあえずと、壁掛けのカレンダーを確認して、外の粉雪を見て、それから笑顔で椛にその行事恒例の挨拶をしようとすれば、即座に両手で口を塞がれた。
…なんで?