第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
温かい布団の中、柔らかい体を抱き締めて眠る。
背中を向けている彼女の項に顔を寄せて、その匂いに包まれて眠るのは凄く心地が良い。
朝が来る度に、離れるのを名残惜しく思う程に。
許されるならば、ずっと浸っていたい。
だけどいつかはやってくる目覚め。
意識が朧気に浮上しようとする中で、くすくすと聞いたことがある笑い声を耳にした。
あ…これ、椛の声だ。
なんで笑ってるんだろう。
「ありがと、ティム」
それから、ひそひそと声を静めた御礼の言葉。
…ティム?
今、ティムって言ったような…。
それでも前日の任務で疲れていた体は起きる気配を見せなくて、力が抜けたまま腕の中の存在に浸っていた。
「ティム、カーテン開けてくれる?」
「ガァッ」
再び深く意識を落とそうかとした時、聞こえたのはまたあの声だった。
僕の大好きな声。
それからもぞもぞと、腕の中の存在が身動ぐ。
あ。体温が離れる感覚。
…やだな。
「…ん」
意識が微かに浮上する。
離れる体温を逃したくなくて。
「おはよう。起きて」
優しく呼びかけてくる声。
今度は意識がしっかりと浮上していく。
耳の後ろを撫でる指先が気持ち良くて、重い瞼に力を込めて目を開けた。
視界に映ったのは…ずっと腕の中に閉じ込めていたはずの、僕の恋しい人。
「…ふあ……椛…?」
でも思ってた以上に意識は虚ろだったみたいで、欠伸が漏れてしまった。
昨日の任務、終わったの深夜だったからなぁ…ラビが最後にふざけてヘマするから。
おかげで始末書を書かなきゃいけなくなったし、昨日のジェリーさん特製料理、食べられなかった。
凄く食べたかったのに、悔しい。
…あれ? なんで特製料理だったんだっけ。
「おはよう、アレンくん」
寝起きでよく回らない頭で考え込んでいると、目の前で椛が笑う。
僕を呼ぶ。
ふわりふわりと、真綿のように柔らかい何かに触れたかのような感覚。
それだけで思考は全て椛に持っていかれてしまった。
まぁ、いいや。
とりあえず、僕が欲しいものは今目の前にあるから。