第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
「朝から雪なんて。今日は寒くなりそうですね…」
「…だね」
まじまじと舞う粉雪を見ての第一声が、気温の心配なんて。
まぁ、気持ちはわかるけど。
「でも今日はクリスマスだし。ホワイトクリスマスになったね」
「あ。そうでしたっけ」
そう、今日は12月25日。
かの有名なイエス・キリストの降誕祭。
だけどミアは壁にかけられたカレンダーを見て、やっと思い出したように呟いた。
昨日あんなにジェリーさんのクリスマス特別メニューを食べ損ねたこと、残念がっていたのに。
もう忘れたのかな。
アレンくんはまだ10代の未成年だけど、クリスマスっていうものにはあまり興味がないように見える。
此処は黒の教団で彼はエクソシストだから、AKUMAと戦うのが日常なわけで…遊びに没頭するような日常は送れないけれど。
でも、偶にはいいんじゃないかなって思う。
ひたすら好きなことに没頭する日が、一日くらいあったって。
「椛、Merry chriむぐっ」
「ちょっと待って!」
「…なんれふか?」
カレンダーから粉雪、そして私へと目線を変えたミアが笑顔でその言葉を口にする。
誰しもが開口一番、紡ぐであろうその言葉を。
だから全てを言い切る前に、慌てて両手で口を塞いだ。
あ、危ない危ない。
「それより先に言うことがあるから」
「?」
大人しく口を塞がれたまま、不思議そうに目で問いかけてくるアレンくん。
その口からそっと手を離せば、今度は大人しく待ってくれた。
再び目で先を促すように、問いかけられる。
こほんと一つ咳払い。
クリスマスより先にお祝いすることがあるから。
ちゃんと言わなきゃ。
「Happy birthday、アレンくん」
12月25日。
クリスマスよりも先に、貴方への祝福を。
それは何よりも譲れなかったもの。