第6章 Merry christmasの前にⅠ【アレン】
「ティム、カーテン開けてくれる?」
「ガァッ」
小声で頼み込めば、聞き分けの良いゴーレムはパタパタといつもより静かに羽ばたいて窓際へと飛んでいった。
それを視界の隅で確認して、後ろから回されている腕をそうっと持ち上げる。
右手は普通の肌色。
左手は二の腕まで、普通とは違う赤黒い色を成している。
その目立つ赤黒い腕は、私の首の隙間に差し込まれて腕枕をしてくれていた。
よくこれやるけど、腕痺れないのかな…。
……普通とは違う腕だから、大丈夫なのかな?
よくわからないけど。
でもこうして触れてみれば、見た目は赤黒くてゴツゴツしているように見えるけど、柔らかい皮膚をした普通の腕だってわかる。
私の腕と、何も変わらない。
…ただちょっと、イノセンスっていう特殊なものなだけで。
「…ん」
もそりと体を反転させて、背後で覆ってくれていた体と向き合う。
そうすれば彼の口から微かな吐息が漏れて、起こしたかな?と顔を伺ってみた。
しゃ、とカーテンが開く音。
ティムが開けてくれたカーテンの向こうに、まだ少し薄暗い冬の景色が映る。
薄暗いけど、白い世界はわかるくらいに明るい。
確かに朝が近付いてくる気配。
「おはよう。起きて」
任務で遅かった彼を早く起こすのは、少し忍びないけど。
でも今日は世界中が騒ぎ立てる、一年で特に有名な日だし。
誰かに邪魔される前に起こさないと。
カーテンが開いて微かに明るくなった部屋。
外の雪が積もった真っ白な世界と同じ、真っ白な髪に白人特有の白い肌。
前髪が垂れて少し見え難いけど、左目から額にかけて大きな痣のようなペンタクルが刻まれている。
随分と個性的なパーツを持っているのに、静かに眠る顔は人形のように綺麗だなぁと思った。
指を細くて柔らかい、ふわふわの髪に差し込む。
そうして優しく耳の後ろを撫でれば、髪の毛と同様睫毛まで真っ白な瞼が、ふるりと震えた。
一息ついて、ゆっくりと開く瞼。
私の目に映る、薄い銀灰色の綺麗な瞳。