第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
日本は歴史の古い国だ。
にわかに信じられねぇけど、"神様"だとか"妖"だとか、そういう存在も身近にあるのかもしれない。
…西洋で言う吸血鬼みたいなもん?
それなら信じられっかも。
クロちゃんがそれに当たるし…ってクロちゃんの場合はイノセンスが関係してたんだっけ。
多分そのオイナリサマやクダギツネは、イノセンスとは違うもんだ。
なんとなくだけどわかる。
「…まぁ管狐の場合、名前さえ明け渡さなければ安心ですから」
まるで怪奇現象の一つ。
そういうもんが苦手なオレと南だからまた黙り込んでしまえば、これまたフォローするように坊さんは笑った。
「名前を明け渡す?…ってどういう意味ですか?」
「人の名はその者を成す"言霊"。それを管狐に知られると、その者自体を明け渡すことになってしまう」
その者自体?
……命とかそういうもんってこと?
「管狐に名を問われても、答えてはなりません。一度答えてしまえば、その名を取られてあちらの世界へ呑み込まれてしまう」
"名を問われる"
坊さんのその言葉に、オレの思考はある出来事で止まった。
『ねぇ、』
………そういや…名前……聞かれた、ような。
『おにいさんのお名前、おしえてくれる?』
あれは、狐のお面を被った女の子。