第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「きっと御二方の纏う空気があまりに楽しそうだったので、お稲荷様も遊びたがったんでしょうね」
にこりと坊さんが笑う。
オレ達を交互にその目に映して。
え…いやいやいや。
え、マジで?
「そんなこと──…あっ!」
突拍子もない言葉に半信半疑でいると、急に声を上げる南。
思わずびくりと反応してしまった。
見れば、握っていた袋の中身を驚いた顔で見ている南の姿。
「なんさ、南。いきなり大声上げて…」
「これ…っラビ、これっ」
「へ?」
問えば驚いた顔のまま、慌てて差し出して見せられたのは袋の中。
そこを覗けば、オレが射的で取った景品の試験管セットが──
「…え…?」
そこに入っていたのは、ただの枝切れだった。
恐る恐る取り出してみる。
何度感触を確かめてみても、振ってみても、それは只のどこにでもある棒っ切れ。
………マジで。
「「……」」
「そのような顔をなさらずとも、大丈夫ですよ。お稲荷様は人をからかいはしますが、無邪気な御方です。害を成すようなことは致しません」
どうやら坊さんの言うことは本当のことだったらしい。
黙り込んで顔を青くするオレらに、フォローのつもりか、優しく声を掛けられた。
「それよりも気を付けるべきは管狐の方でしょう」
「…クダギツネ?」
なんさ、また知らない名前が出てきたんだけど。
それも八百万の神様かなんか?
「お稲荷様と姿は似ていますが、あれは妖。憑き物の一つ。時々お稲荷様に成り済まして人に近付き、取り憑いて呑み込んでしまいます」
…なんさそれ怖いんだけど。