第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「いくら片付けるにも早過ぎるんじゃ…」
「そーさなぁ…」
二人でキョロキョロと辺りを伺う。
人っ子一人見当たらない。
まるで手品のように何もかも消えていた。
──カランッ
聞こえたのは、何かが地面を打つ音。
はっと音の方へ目を向ければ……何もいない。
暗い茂道がそこにあるだけ。
…………なんか、薄ら寒いもん感じるんだけど。
「…なぁ南…なんかさ、変な空気感じんだけど…」
「待ってやめてそういうの」
恐る恐る握った手の先に伝えれば、即座に止められた。
多分南も似たもんを感じているのか。
握った手に僅かに力を込められた。
…なんとなく、此処にずっといない方がいいような気がする。
「なぁ南」
それを切り出そうと再び声をかけた。
「やれ、そこの御二方」
「うわぁあ!?」
「ひゃあっ!?」
同時に知らない声がして、思わず上がる悲鳴。
反射的に目の前の南の体を背中に隠す。
な、なんさ…ッ!?
「おやおや…そのように驚かなくとも。怪しい者じゃございませんよ」
暗い夜道。聞き慣れない流暢な日本語。
其処に立っていたのは、夜の空と同じく真っ黒なキモノ姿の坊主頭の男。
黒いキモノの上には光沢感ある布生地を重ね着している。
なんだっけ…この恰好、なんかの資料で見た気が…。
「私はすぐ其処にある寺の住職です。供え物をしていたところでしてね」
住職?…ああ、確か坊さんのことだっけ、それ。
優しい顔で笑う坊さんに、なんとなくほっとする。
まともそうな人がいてよかったさ…。
「こんな夜更けに、見慣れぬ出で立ちの御方がいるものですから。てっきりお稲荷様かと思いましたよ」
「オイナリサマ?」
「あ…もしかしてそのお供え物って…?」
「然様。お稲荷様への献上物です」
オレの後ろから顔を覗かせて問いかける南に、坊さんが両手で抱えていた籠を見せる。
その中には、様々な果物や油揚げで包んだ稲荷寿司が丁寧に並べられていた。