第5章 旧い夢 【悪い夢 side S】
少しでも暖めたくて…。
静まりきった空気に耐えられなくて
俺一人でしゃべってた。
キッチンを借りてコーヒーを淹れる。
マグを持って戻った。
智くんは俺が来た時と同じように
部屋で立ち尽くしていた。
「智くん、座って!
ってここ俺んちじゃないじゃん!」
なんとかこの空気を壊したくて…
馬鹿みたいに明るく話す。
でも…そんな簡単には変わらない。
ようやく口を開いた智くんから
【櫻井くん】って言われて…。
ショック…というか智くんから壁を感じる。
今までにないことだから
どうしていいかわからなくて…。
言葉を交わしながら
どうしようもない焦燥感に襲われる。
智くんが話を終わらせたがっているのが
わかる。
どうしていいか?
どんな言葉をかければいいか
最早わからなくて…。
どうしても伝えたかったことだけ
一方的に話してしまった…。
俯く智くんの頭をいつもみたいに
ポンポンと軽く触って…部屋を出た。
帰り道…。
泣きそうになるのを必死で抑えて家に戻る。
俺の知ってる智くんの表情と
さっきの智くんの顔。
あまりにもかけ離れてて…。
智くんがリーダーになったとき…
密かにした決意。
<智くんがリーダーでいる限り、
この人をサポートし続ける>
なのに…。
守るどころか気づきもしなかった。
なにも出来なかった俺。
どうしたらいい?
何をすればいい?
思考の迷路にはまり込んだ気分だった。