第5章 旧い夢 【悪い夢 side S】
10年前のツアー最終日。
長かったツアーも無事に終わり、
このあとは打ち上げに出掛ける予定だった。
それぞれシャワーを浴びて
集合場所に行くことになっていた。
ところが…
いつも時間に正確な智くんの姿がなかった。
最初はきっと支度に
時間が掛かってるんだろうと
誰もが思ってた。
5分…10分…15分。
さすがにおかしいということになり、
事務所の人たちやメンバーと探し始めた。
控え室エリアの一番奥。
本来なら使われない部屋から
明かりが洩れていた。
部屋の隅の方に…ぼろぼろになって
呆然とした顔の智くんが倒れていた。
殴られたあとの残る体。
男たちの劣情の痕。
智くんの青白い顔…。
思わず目を背けたくなる状況だったけど
なぜか俺は目を逸らしちゃいけない
気がした。
智くんを助け起こそうとするけど…
儚げな笑みを浮かべながら手を払いのける。
そのまま立とうとするけど…
力が入らないのかそのまま倒れてきた。
倒れてきた智くんを抱き留め、
智くんを包む腕に力を込めた。