第19章 DESPERATE
二宮side
「とにかく、帰りますよ?
いつまでも此処にいても
しょうがないでしょ?」
そういって智の手を取ると
そのまま事務所の駐車場に向かった。
事務所が懇意にしている個人タクシー。
その後部座席に智を押し込み
自分も乗り込む。
チーフにはコンビニに寄るって
言ったけど停まってたタクシーが
家まで着けてもらっても
大丈夫なタクシーだったから
家まで直接行ってもらうことにした。
事務所から車で10分ちょっと。
麻布の奥の方にある俺達の家は
正直、公共交通機関からは
アクセスが悪い。
周りは大使公邸や大使館、
昔からあるお屋敷が多いせいで
セキュリティは高いし、
周囲の人間も俺たちのことを
詮索しないから本当に助かっている。
車内では俺も智も一言も喋らず
沈黙だけがあって
その空気を読んだ
運転手さんもまた余計なことは
一切喋らずにいた。
いつもよりもだいぶ長く感じる
道のりから開放されたとき
何とも言えない疲労感に
包まれていた。
それでも…
無かったことにはできない。
智の手を握って家に入った。
「大野さん…ちゃんと聞かせて。
船から落ちたのには
理由があるでしょ?
怒らないから…教えて?」
ためらうような表情の智に
逃さないっていう目で見ながら
それでもなるべく穏やかに伝えた。
智…ちゃんと教えてよ…。
私もそろそろ我慢の限界なんです…。