第18章 Will never let you go…
大野side
翔くんが帰って来たのは
車のエンジン音で判った。
この家がある場所には
ほとんど車は入って来ない。
限られた台数の車しか通らないから
いつしかエンジン音で
誰の車か判るようになった。
無意識のうちに暗くなった部屋に
明かりを入れてた。
ガレージのシャッターが開く音が聴こえて
瞬間、体がビクッとした。
さっきまで
時計の秒針の音しかしてなかったのに
今は自分の心臓の音が
うるさいぐらいに聞こえる。
どうしよう…。
今更どうしようも無いのに…。
せめて迎えに出ようと思ったのに
立ち上がったまま動けない。
なんだか息苦しくなってきて
頭の芯がぼーっとしてくる。
どうしよう…どうしたらいい?
足音がどんどん近づいて来て、
それに呼応するように心臓の音も
耳の奥で大きく聞こえる。
人の気配に顔を上げると
そこには大好きな人がいた。
S:「智くん…おかえり」
翔くんの声が耳を打つ。
それまで耳に入って来てた
心臓の音も秒針の音も消えた。
次の瞬間、暖かな体温に包まれる。
翔くんの香りと腕の力強さ。
「ただいま…翔くん」
その一言を呟くのが精一杯だった。
息苦しさがどんどん強くなって
翔くんのジャケットの裾をぎゅっと握る。
心臓の鼓動がどんどん大きくなって
頭がクラクラする。
息が…出来ない。
苦しくて足から力が抜けて
その場にしゃがみこみそうになる。
それを翔ちゃんが支えてくれた。
翔くんの声が遠い…。
折角帰ってきたのに…。
怖い…死にたくないよ…。