第4章 悪い夢 side O
翔ちゃんは手に袋を持って
部屋に入ってきた。
S:「退院したって聞いたから…。
…食事、した?
買い物とかもまだ大変でしょ?
少し買ってきたから…」
にっこり笑って手にした袋を
テーブルに置く。
S:「この部屋、少し寒くない?
エアコン、つけるよ」
反応しない俺を見る翔ちゃん。
S:「智くん?まだ具合、悪いの?」
瞳に心配の色を湛えて俺の顔を覗きこむ。
俺は首を振ってそれを否定した。
S:「それならいいけど…。
あっキッチン、借りるね」
言いながら翔ちゃんはキッチンに行き、
しばらくして湯気のたったマグカップを
二つ持って戻ってきた。
S:「智くん、座って!
ってここ俺んちじゃないじゃん!」
重い空気をなんとかしようと
努めて明るく振る舞う翔ちゃん。
言われた通りダイニングに座り
マグカップを手にした。
なんか喋らないと…。
でもことばが見つからない。
しばらく沈黙が続く。
「櫻井くん、今日、仕事は?」
湯気が見えなくなった頃、
ようやく出た言葉。
【櫻井くん】なんて呼んだの
どれぐらいぶりだろう?
S:「今日はオフだから心配しないで。
それより急に【櫻井くん】なんて
ひさしぶり過ぎて驚いたよ」
多分、Jr.の頃以来だ。
無意識に距離を作りたい気持ちが
呼び方に表れたんだと思う。
自分から遠ざけたい。
綺麗な翔ちゃんを汚れた自分から…。