第14章 Dear my doctor
櫻井side
「ただいま…」
聞こえるか聞こえないかの小さい声しか出せない俺。
N:「おかえりなさい。
とりあえず、リビング行きましょ?」
和に促されて、和を先頭にリビングに向かう。
夕日の射し込む部屋はオレンジ色に染まる。
N:「呼んでくるから」
天井を指差してから和が階段を昇っていった。
A:「飲み物、淹れてくるね?コーヒーでいい?」
聞いてくる雅紀に頷き、ソファーに凭れる。
そんなに間を置かずに階段を降りる音が聞こえた。
降りてくる足音は…2つ。
和と潤のもの。
智くんのがないのが不安だった。
どこかに出掛けたのかな?
急遽オフになったし…。
そう思いながら顔をあげる。
「あっあの……ただいま…」
なんともまぬけな言葉しか出なかった。
N:「はい、おかえりなさい。
って翔さんなに?
さっきも聞いたのよ、それ?」
「あ、そうだね…」
そのまま言葉を探す俺。
沈黙がオレンジ色の空間に広がる。
「あのっ…ごめんなさい」
それしか見つからなくて…ふたりに頭を下げた。
どうしたらいいかわからなくてそのまま、思っていることを言葉にした。
「いろいろ、心配かけて…迷惑かけて…ごめん
なんか一気に突きつけられて…
ワケわかんなくなって…逃げた
でも…もう逃げないから…」
頭を下げ続ける俺に和の声が聞こえた。