第14章 Dear my doctor
櫻井side
A:「ふふっ、図星?」
黙りこんだ俺に笑いながらそう言った雅紀。
その笑みはいつもの雅紀の太陽のような暖かいものではなく、月の光の様に冷ややかで妖しく綺麗なものだった。
瞬間、ぞくりと背中を走り抜けたものは戦慄だったのかもしれない。
「雅…紀?」
自分の声に僅かに含まれた怯えを自覚する。
その怯えは雅紀の一言で具現化する。
A:「翔ちゃん?
いくら言っても伝わらないならさ、
教えてあげるよ?
その躰に…」
思わず逃げようとする俺の腕を捕り、そのまま身体を壁に押しつけられる。
「雅…っ、ゃめっ」
あきらかに怯えた俺の声を無視した雅紀は俺の顎に綺麗な指を伸ばし、捕らえるとクイっと下から持ち上げる。
俺より背の高い雅紀の顔をみつめる形になる。
視線が交わる。
あっ…って思ったときにはもう雅紀の唇がおちてくる。
スローモーションを見てるかのようにゆっくりと落ちてくるようにみえたその唇を自分の唇で受け止める。
なぜか抵抗は出来なかった。
ドラマのシーンの様に現実味を持たないキスなのに…唇から確かに感じる熱がスゴくリアルで…。
この瞬間が幻ではなく現実であることを容赦なく突きつける。
一瞬、離れた唇が明確な意図を持ってふたたび触れる。
今度は触れるだけではなく…。
濡れた舌が下唇を撫でる。
触れる舌の熱に薄く開く口に間髪を入れずに舌が侵入してきた。