第5章 7月
「どうだ鈴、少しは良くなったか?」
私と研磨を包む静寂をぶった切って近づいて来たのは鉄朗で。答える前に頭をわしゃわしゃと撫でられて、私は何も言えなかった。
「ちょっとクロ、鈴体調悪いんだからそんな乱暴にしないでよ」
研磨に叱られて鉄朗はスマンスマンと手を引っ込めた。
私はくしゃくしゃになった頭を手櫛で直す。
「あ、そうだ研磨、1年集めてアップ始めといてくれ」
「…なんで俺」
「烏野がそろそろコッチ着くらしくて、案内してやれって監督が。アップは山本に頼もうとしたんだが見つからなくてよ」
ものすっごく嫌そうな顔した研磨だったけど、鉄朗に頼み込まれてしぶしぶ立ち上がった。
「……虎を見つければそれでいいんでしょ」
「…お前、頑固だよな」
ムスッとした研磨はズボンのポケットに手を突っ込んだまま校舎の方へ歩きだした。
私も立ち上がって猛虎さんを探しに行こうとしたところ「オマエはもう少し休んでろ」と鉄朗に腕を引かれて止められた。
「鈴が頑張ってんのはみんな知ってんだから、無理すんなって」
さっき整えたばかりの髪を、大きな手が撫でる。
研磨に言われた事を気にしてるのか、今度は壊れ物でも扱うみたいにふわふわと触れてくる。
撫でられていた手が頭の後ろに回され、優しく引き寄せられると、鉄朗の鍛えられた胸元にとん、と頭がぶつかった。黒いTシャツからは私と同じ柔軟剤の匂いに混じって微かに鉄朗の汗の匂いがした。
この温もりから離れたくなくて、私はその裾をきゅっと掴んだ。