第5章 7月
―木兎光太郎と借りてきた猫―
7月7日。
一時は絶体絶命と思われた犬岡くんも、いつも大きな声で歌ってるからと音楽の先生にオマケしてもらって、音駒バレー部は誰一人欠けることなく今日の合宿に参加する事ができた。
電車とバスを乗り継いで、約1時間半。東京の郊外にある梟谷学園。その体育館の外の日陰に、私はうずくまって座っていた。
胸と頭の中をぐるぐると掻き混ぜられてるような不快感が休む間もなく襲ってくる。いっそ吐いてしまったら楽なのかもしれない。
駅からここまで15分程度しか乗ってないのに、久しぶりに乗ったバスに酔ってしまったのだ。
「水、買ってきたよ」
研磨の声がして、ゆっくり顔を上げるとペットボトルの水が目の前に差し出されていた。
「…あ、ありがと」
私がそれを受け取ると、研磨は隣に座って優しく背中をさすってくれた。
キャップを開け、ボトルに口をつける。
冷えた水が喉を流れると、少しだけ気持ち悪いのが和らいだ気がした。
「鈴、ちゃんと寝てるの?」
一定のテンポで背中をさすりながら、研磨がそう問い掛けた。
私は目を逸らして、小さく首を横に振る。
その沈黙を笑うかの様に遠くで一匹、気の早い蝉が鳴いていた。