第5章 7月
「いいか鈴、犬岡!赤点ラインは30点だから、文章題2つと最初の計算問題をいくつか正解すれば赤点は防げる」
「全部の問題を解こうとしなくても大丈夫だからね」
二人が考えたのはテスト範囲の約半分を諦めるという、なんとも大胆な作戦だった。
まあテストまで残り1日という事を踏まえると、至極妥当な作戦なのかもしれない。
無駄話もそこそこに、厚い問題集の中から事前にリエーフがピックアップしてくれた問題だけを選んで解き始める。
1問目は教えて貰いながら何とか解いた。
2問目、一人で解いてみてよと言われ、今私は必死で考えている。
考えてはいるんだけど、その…正直、わからない。
「……リエーフ…あの、…ど、どの公式、使えば…いい?」
「………は?」
リエーフは口をポカンと開けて、私と問題集を交互に何度も見た。
「え、さっきのと同じじゃん」
どの公式使うとか、どんな式を立てるとか…
問題のどこを見て判断してるのか教えて欲しいのに、鉄朗も研磨も「さっき似た問題解いたろ」「普通わかるでしょ」としか言ってくれない。普通って何?
「だ、だって…数字も、図形も…違う、よ?」
リエーフが眉をピクピクさせていた。
「…これか、センスが無いってのは」
階下に遠慮してかパタっと静かにその場に倒れると「あと一日でどうにかなんのかよこれ!」と頭を抱えて藻掻いた。
私だって好きで解けない訳じゃない。
「…点Pと点Qが、動かなければ…いいのに」
ポツリ呟くと、向かい側に座る犬岡くんも頷いてた。
「しょうもないこと言ってないで問題解けよ」
リエーフは手頃な武器が無かったのか、ふざけて私のほっぺたを引っ張る。
叩かれるより幾分かマシだけど、これは少し恥ずかしかった。
頬をつねられたまま「ひゃい」と返事をして、私は姿勢を正し問題に取り掛かる。
言われた通りさっきと同じ公式を当てはめると、式は何とか立てられた。