第5章 7月
犬岡くんが泣き言を言い、リエーフが怒り、芝山くんが慰めるという一連の流れをエンドレスリピートで聞きながら、約5時間。途中何度も休憩を挟みながらも、ヤマを張った問題集の文章題は一通り解いた。
こんなに勉強したのは高校受験のとき以来かもしれない。
「あとは変な問題出ないことを祈るしかねーよな」
「そうだね…犬岡くんも鈴さんもお疲れ様」
私はテーブルに突っ伏したまま、コクコクと二度頷いた。
いつも元気な犬岡くんからも返事が聞こえないから、私と同じでグッタリしてるんだろうなと想像する。
「明日の教科って何だっけ、数Ⅱと現文はあったよな?」
「うん、確か世界史もあったはずだけど…今、テストの日程表出すね」
ペラペラとクリアファイルの中で紙を捲る音がした。
「あ、あった。…さっきの3教科と、あと選択芸術があるみたい」
「へー、でも俺らはテスト無しだよな?」
リエーフと芝山くんの会話に反応して、向かい側に座る犬岡くんがバッと起き上がる。
何事かと釣られて私も起き上がる。
「あのさ、すっかり忘れてたんだけど、選択音楽って誰が教えてくれるの?」
私はリエーフを見る。
「いや、俺も選択は美術だって鈴も知ってるだろ?」
芝山くんを見る。
「えっと…その、僕も美術なんだよね…」
美術は課題の提出だけで、期末はテスト無いって先生が言ってたから、すっかりみんな忘れていたみたいで。
「……俺も合宿行きたかったああああ!」
犬岡くんの悲痛な叫びがこだました。