第4章 6月
「バスティーユろうごくしゅーげきで、フランス革命でマリンアントナントカがナポレオン…?」
「…カ、カタカナ、いっぱい…だね」
私たちが几帳面に纏められた芝山くんのノートを写していた所に、意外な救世主がやってきた。
「よお、オマエら!煮詰まってるみてえだな!」
「あ、猛虎さんだ!チワっす!」
犬岡くんは見知った顔を見つけると嬉しそうに挨拶した。
猛虎さんと、それに引きずられて研磨、後ろからひょこっと福永さん。
どうやら2年生の三人もここで勉強会をするようだった。
「まあ勉強会って言っても、虎の勉強を見る会だけどね」
研磨がそう言うと二人は携帯ゲーム機とお笑いの雑誌をそれぞれ取り出した。なんと言うか余裕しゃくしゃくだ。
「猛虎さんも赤点ヤバいんスか?」
「ハッハッハ、愚問だな犬岡」
犬岡くんの質問に猛虎さんは胸を張って堂々と答えた。
「こう見えて1年の一番初めの中間テスト以来、赤点はとってねぇんだぜ、俺は!」
サラリと自分のモヒカンを撫で上げながら、その顔は少し自慢げだった。
「おー、意外っスね!猛虎さん!」
「お前が頭いいって事のほうが意外だボケェ!」
リエーフは猛虎さんに頭いいって言われて「そうッスか?へへっ」なんて嬉しそうだった。頭いいのになんでこういう事に疎いんだろうか。
「それはそうと…俺が赤点を回避できてる秘密知りたくねえか?」
「そんなのあるんッスか?知りたいっス!」
犬岡くんはその甘い言葉にすぐさま食いついた。
赤点回避の秘密…?
なんだか怪しい感じもするけど。
「…犬岡ぁ、教えて下さい猛虎さんだろお?」
「教えて下さい猛虎さーん!」
従順な犬岡くんはよく躾けられた犬みたいだと思った。
でもそんなので勉強できるようになるなら私も是非教えてもらいたい。
「…あの……お、教えて、くだ…さい、猛虎さん…?」
思い切って言ってみた。
するとまるで見えない銃弾で打たれたかの様に、猛虎さんの体がグラリと揺れ、胸を押さえて片膝をつく。
「…!?」
驚いて席を立ち上がり猛虎さんに駆け寄る。
「ひゃ、ひゃい!…よ、よろこんで」
その顔を覗き込むと茹でたタコみたいに真っ赤で、なぜか少し嬉しそうだった。